シェアするということ-1- 案内されてたどり着いたように思える。扉を開けて先に店内に入るのはいつも俺だと決まっているわけではない。厚手のパーカーを脱いでこちらに向き直ったあの人が滑らかに隣に座れるように椅子の背中をさっと引いたときの感覚さえある。 赤ワインを。cavaの泡にうっとりするのが一杯目の決まりみたいな気もしたけれど、赤を飲みたかった。 南仏。グルナッシュ主体で渋みと遠くの方に果実味と酸味が。渋重が似合う季節が一足先に訪れる。この街はキラキラと賑やかだけれど決して下品でない振る舞いをする。喧騒の中に優しさがある。北にあるこの街のあたたかさが好きだ。 鹿肉は優しく、洋梨は甘やかで、ブルーチーズは芳しく、胡桃は歯ごたえというリズムを与えた。 美味しいね。美しい言葉を発する事も、美しい味のするワインを導き入れることも、あの人の唇は他の誰の唇よりも美しくやって見せる。

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